2017年11月9日木曜日

村井多嘉子女史の「豆腐めし」

村井多嘉子著「一年間のお惣菜 附録月月のお漬物」(昭和三年)より、「豆腐めし」を作ってみた。




この豆腐めし、これまで作ったレトロ料理の中でも五本の指に入るほど美味しい。食べながら天を仰いでしまうほどの美味しさ!
そのため、私はもう数えきれないほど作っている。豆腐は良いものでも、安いものでもかまわないが、絹ごしではなく木綿豆腐で作った方が美味しいように思う。
コツはふたをせずにトロ火でじっくり煮ること。そして、一度冷まして味を含ませることではないだろうか。豆腐と一緒に大根を煮てもよろしいかと思う。

村井多嘉子さんは、名著「食道楽」の作者村井弦斎氏の奥さんで、ご本人も相当な料理上手だったらしく、ご自身でも多くの食に関する本を出している。
この「一年間のお惣菜 附録月月のお漬物」は、毎月その季節に合った料理を紹介しているのだが、どの料理も家庭の主婦が作ることを念頭に置いてあり、経済的で簡単、そして何より家族みんなが喜びそうなメニューが多い。読んでいるだけで楽しくなる本だ。
また、現代の感覚ではちょっとビックリするような注意書、例えば「馬鈴薯と薄荷は一緒に食べてはいけない」とか「缶詰は膨らんでいないものを選びなさい」(昔は缶詰の加工技術が現代ほど発達しておらず、中で腐敗して缶が膨張するなんてことがあったようだ。)とか「毒虫に刺されたら里芋で湿布をしなさい」などが書かれてあってなかなか面白い。
食養生についてもかなりの知識をお持ちだったようで、美味しいだけではなく、子どもの健康面や病人に対して配慮した部分も多くみられた。

この本は、西洋料理については各材料の分量が明記されているが、日本料理については細かい分量は述べられていない。辻嘉一氏が書かれていたが、そもそも日本で日々食べられてきた家庭料理は、その家の好みや季節による体調、味覚の変化に応じて分量を加減しながら作るものとのことで、これには私は大賛成である。明治大正に書かれた料理本の多くに手順は書いてあっても、分量の表記が無いのも、日本の家庭料理がもともとはこのように作られてきた経緯があるからではないだろうかと思う。
なので、下記に記したレシピの分量は私が実際に作って美味しいと感じた分量であって、元の本とはやや違うし、万人が美味しいと思う味でもないと思う。あくまで目安程度にされたい。

    *          *          *

「豆腐めし」の拵え方
               

材料(二人分)
木綿豆腐         一丁
昆布と鰹のだし 600cc
濃口醤油    大匙4強
味醂      大匙3
砂糖      大匙2

薬味
 大根おろし
 ねぎ
 もみのり
 柚子の皮
 七味唐辛子

御飯

拵え方
一、豆腐は細長い拍子木に切る。もしくは豆腐めしの名店「お多幸」のように一丁を厚さ半分にして大きいまま煮るのもよろしい。(我が家はいつもそうするのが好き。)

二、だし汁に、醤油、味醂、砂糖を加えてよく混ぜ、豆腐を崩さないようにそっと入れる。煮立つまでは中火にかけ、ぐらっときたらすぐに弱火にして蓋をせずに30~45分ほど煮る。煮る時間は豆腐の大きさに依る。

三、火を止めてそのまま冷まして味を含ませる。

四、薬味を準備する。大根はおろして水気を切る。葱は小口切りにして水に暫く晒してから水気を切る。海苔は火取ってから揉んで砕いておく。柚子の皮は細かく刻む。

五、御飯を盛り、上から豆腐とその汁をかける。大根おろしと葱をのせ、あとは好みの薬味をかけて混ぜながらいただく。

〔附言〕
薬味に柚子胡椒を使ったらとても美味しかったです。

元のレシピ(画像をクリックすると拡大します)
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